静かな朝
             岩井 洋

静かな休日の朝だ

...

朝から小鳥のさえずり以外
聞こえてこない

耳を澄ませて待っているのに
ちり紙交換も来ない

戦争への準備を進める
法整備は着々と進められているというのに

静かに、静かに
休日の朝は始まっている

とめなかった   宮尾節子

  

わたしは...
かかなかった
戦争詩を。

 

わたしは
しなかった
苛(いじ)めを。

 

ふたりいない
ふたつはない


答はひとつ
人もひとり
だよ。

 

わたしは

 

とめなかった。

 トンキーおじさん    石川逸子

                

ぼく 知ってるよ

トンキーおじさんのこと

だいぶ昔のことだけど

ちゃんと言い伝えされてるからね

 

トンキーおじさんは

上野動物園にいたんだ

あるとき <猛獣はみな殺せ>って命令がきた

 

万一 空襲で 動物園がやられたら

猛獣は 野放しになり

ヒトが 襲われてしまうからって

 

ヒョウ チーター ライオン 熊 ガラガラ蛇 

銃殺は禁じられ 青酸カリで ロープで

みんな殺されてしまったんだ

 

ぼくらのトンキーおじさんは がんばったよ

毒の入ったものは食べず

青酸カリを溶かした水も飲まない

 

もう餓死させるしかない

泣きながら 動物園のヒトたちは

トンキーおじさんに 餌も水もやらなかったんだ

 

弱った体で 餌がほしくて

両前肢をあげ ちんちんをしてみせた 

トンキーおじさん

哀れで つい水をあげてしまった 係のヒト

 

象のぼくらは

みんな トンキーおじさんのこと 知っている

草原で 涙をこぼしながら 先生が話してくれたんだ

 

ところで ヒトの子どもたち

 

 

 

トンキーおじさんのこと 聞いてるかな

先生は 話してくれてるかな

 

ぼく 時々怖くなるんだ

ぼく 日本の動物園にいるからね

ぼく いつか 餓死させられたりしないだろうか

 

 

2 星条旗に従って  石川逸子

                

 

野菜を売っている老女

山羊を連れている少年

みな「敵」に見え

怖いから 撃つ

 

携帯電話を持っていたら殺す!

走っていれば殺す!

逃げるものも殺す!

白旗をかかげるものもワナだから殺す!

 

―星条旗を逆さまにして

イラク戦争から帰還した兵士たちは語った

 

命令にしたがい

三日間 人間を撃ちつくし

犬 猫 鶏 あらゆるものを撃った

二十二歳のマイケル

 

菓子を毎日あげていた 少女

その日も兵舎に近づいてきたところを

二階から上官の兵士が 容赦なく撃った

自分の目の前で息絶えた 少女

 

―星条旗を逆さまにして

《冬の兵士》と名乗る 二十六歳のアダム

 

<平和安全法制>という美名のもと 星条旗に従い 

自分には悪さなど一切していない

地球の裏側のひとまで殺し 白骨になってしまった 

太郎 二郎 の夢を見た

 

―その道は 自分らが歩まされた道

東洋鬼にされ 白骨になった道

おうい その道だけは 進むなよ

 

深夜 かすかに聞こえる呟きは 死者の声か



約束      佐川亜紀 


星の長い小指と

約束しました

地球が生きていけるように

地球で生きていけるように

闇の黒い紙に書きました

シジュウカラの羽で

馬のひずめで

牛の乳で

草の汁で

人の言葉で

日本語で

さまざまな言語で



放射性物質の針千本が突き刺さる

人に

山にも 海にも 子供にも

約束を破った大人

生命の約束を

国の約束を

これ以上 破ってはなりません


その言葉は

もっと遠くから来たのです

もっと広く集めたのです

ずっと昔から渡されたのです

ずっと未来から届いたのです

私達の中から生れたのです

私達の祈りを記したのです

平和への願いを

消してはなりません

アジアの地にたくさんの指の骨が

見つからないまま埋まっています


 


ただいま 戦中  佐川亜紀

 

 

すでに戦中

逆らう口はふさがれ

海を基地から守る手は踏みつけられ

地の力をおそれ原発をやめる知は隠され

 

戦争を戦争と言わない戦中

すぐに戦争が真ん中に来る

すっと世界の戦争に引きずりこまれる

すてきな戦争に飾られる

すでにイラク戦争の帰還隊員に犠牲者は出ている

隠された犠牲者

これから神々しくなる犠牲者

 

言葉の意味がどんどんねじ曲げられ

ねじ曲がった道路を ねじ曲がったルールで暴走し

首がねじ曲がってちぎれそう

 

ただいま 戦中1年目になりそう

おかえり 戦中

戦中でうれしい人もいる

戦中に死なず 名誉の死も遂げず

70年間戦後を生きて肥えて

やっと 戦中 お祖父さんと同じ

 

ただいま 戦中

ゲームや アニメみたい

でも 君の頬を流れるのは君の涙

君の心臓を動かすのは君のしょっぱい血だ

 


いのち・言葉 断章―乗り越えるために―  中村純

言葉がその人を選んで降りてくる。
言葉がふいに私をして書かしめる。
死者たちが、書かしめる。...
ある時代の流れの中で、言葉が、人に役割を求める。
今の政治状況も、その人をして、言わしめている。

言葉は乗り越えていくための創造である。


私たちは、時代を超える創造を、言葉によって為すことができる。
ナチス・ヒットラーの言葉を超えたのは、

フランクルやプリモレーヴィーや、チャップリンの言葉だった。
凌辱された女たちを立ち上がらせた言葉。
水俣病・原爆で破壊されたにんげんを立ち上がらせた言葉。
沖縄の声。

それは、痛みに満ちたその人自身の、にんげんの言葉だった。
反するだけでは超えられない。

 

破壊されたにんげんが、再生するときにたちあがる尊厳と深い人間性の輝き。

その輝きが未来を照らした。
もっとも痛んだ者が、もっとも希望であるという逆説。
而して、あなたはその痛みを引き受け、生き延びた。
人間性を破壊する言葉や制度を超えるのは、人間性を回復する言葉である。
時代の波を超えて行かれるかどうかの鍵は、言葉による創造にある。

 

ヘイトスピーチが象徴する時代の流れと空気。
超えられなければ、あの日の関東大震災の朝鮮人大虐殺。
超えられなければ、あの日の南京大虐殺。
超えられなければ、特攻隊の青年たちの行き場をなくした魂。

 

言葉が、死んだ、日。
殺戮に獣となった者たちには、人の叫びは聴こえず、

だれが加害者で被害者なのかもわからなくなる、地獄絵図。
言葉と名前を奪われたにんげんは、死すしかなかった。
奪った獣たちは、みずからもにんげんであることを忘れ、

言葉と名前を奪われた人たちが、にんげんであることが、わからなくなった。
屠られた朝鮮人も、中国人も、玉砕した特攻隊の青年も、

いのち尽きるとき、自分がだれだったか思い出しただろうか。


母親に抱かれ、名づけられた、日。
陽の光に驚いて、目をみはった、無垢な、いのち。
果たしていのち奪われたことを、思い出しただろうか。
あなたたちの魂は、彷徨ったまま、だ。

いま、時代の危機を察知した詩人に、

ことばを取り戻した死者たちが、土の底から語りかけ、詩人をして言わしめる。
痛むことを恐れるな、乗り越えるために。
にんげんの言葉を創造せよ、乗り越えるために。


 

毎日の暮らしを大切にしたい中で

これだけはと 譲れずにいたものを

明け渡してしまわなければ

とんでもないめにあうのかと

そんな思いの中で家族や親類を

大切にしていたつもりなのに

 

手足をもぎ取られるように

一つ また一つと

 いろいろなことが不自由になっていき

自分を守ってくれると言い聞かされていたものが

自分をおびやかすものでしかないと

そんなことに気がついたときには

もう 何をどうして良いのか

それすらも分からなくなっていて

 

一度 認めてしまった相手には

「良いです」という言葉を言い続けるしかなく

心にもないことを口にすることで

自分自身を追いつめてしまい

 

毎日の生活の中で 押し寄せてくるもの

そうした夥しいものの前には

理性など 保つこともできなくて

それでも 気がつけば 以前には

自分が守ろうと思っていたものが

ぼろぼろと 崩れていて

まるで 治療に行く時間のない

虫歯のようだね

人様から見れば 滑稽かもしれない

でも 自分では本当に

深刻なことなんだよ

 

日々の暮らしの中で 心臓はばくばく

そんな中で 考えなければならないことが

あれこれ多すぎて

でも 自分が今 していることが

どんなふうに これからの世界に残されていくのか

想像することすらはばかられて

 

人が 鍋や掃除機のあれこれに追われながら

いつか抱えている 引け目

そんなものの隙間から

身もすくむようなものが 僕らの生活の中に

流し込まれているのかと

 

弱く 愚かで 小さいものでしかないからといって

責められるいわれはなく

同時に 許される根拠もなく

それでも 自分が何かを守りえる時間が

限られていることを けして誰かに責められる

そんな謂れはないと

 

そんなことを頼りに

方舟のたどり着く山もない時代に

寄る辺ない自分自身を感じながら

今いるのがこの場所であるということだけは

けして 忘れずにいたいのです

 

とても小さな願いなのですが

                 2015.07.11 奥主 榮


望月逸子(吟遊詩人)                        
 <2015年の意志表示>
    ~メシアン『世の終わりのための四重奏曲』5楽章にのせて~

 

キュルキュルキュル キュルキュルキュル

夜明けの湾に反射する
海鳥の高い声
ああ あれは魚を捕まえるために海に墜ちていくコアジサシ!
手をつなぐ幼い人にそっと伝える

河口にはカルガモの親子が浮かんでいる
カルガモの雛が今日も七羽揃っているか
少女は人差し指で何度も確かめる

雛たちは 淡水と海水が交わるあたりで
いきなり川面を全速力で滑ってみせ
高い声を発信し続ける
母鳥はただゆったり傍らにいて
はるかに低い声で応えている

誰にも束ねられたり 盗まれたりしないはずであった
海鳥の声が響く暮らし

いきなり 私や孫たちの明日に個人番号のタグが括りつけられ
「幸せ」と書かれた鉛の箱に詰め込まれる
兵役可能な息子たちの明日は
「平和」と書かれた
輸送用のコンテナに積まれていく
・・・・・・・・・

私の明日を
こんな悪夢に譲り渡さないために
今日ここに立つ

7月18日午後1時ちょうど
駅前で 公園で・・・・・
全国一斉に プラカードを掲げて立ち
許さない一人になる

有事の名のもとに
人の命や暮らしや財産を
勝手に差し押さえる犯罪を
許さない一人になる

繰り返し隣国の名を貶め
憎悪を煽ろうとする者らを
都合の悪い報道機関を                      

「懲らしめなければならない」と
気炎を揚げてみせる者らを
許さない一人になる

「なんで70年間大切に護ってきたものを
簡単に終らせられなきゃならないのですか!」

身をよじって叫ぶ若者の隣で
許さない一人になる




オモニ  西 武


朝鮮路地がありました
長屋に子どもが大勢です
オモニは毎日魚屋の婆さんに取り入っていました...
さばいた魚の頭や臓物をもらうためです
婆さんは帰れとか退けとは言わずにあげていました
あっさりした気のいい人でしたが
顔面は火傷であばたになり引きつっていました
差別の中で生きて来た婆さんは
苦汁をなめたオモニの気持ちが分かったのでしょう
幾歳たってもオモニの姿を想い出します

安倍首相あなたは又第二のオモニをつくる気ですか!


『restore peace』 /   楠 亜季子(inori-ori)


無風の夜に包(くる)まりながら
指でなぞる
傷ひとつないその頬には...
どんな願いも禁じ得ない

明日(あす)の君が豊かに生きられる様に
訝(いぶか)しい思わくに汚(けが)されぬ様に

今日までの暮らしは
権力を振りかざす愚か者が作った
砂の城だったと頽(くずお)れたくない

子を想い
世を憂う事を
誰が止められようか

柔く青い芝生を
風を切って走る
何も知らないその幼気(いたいけ)
どうすれば守れるのだろう

罪なき異邦の人を手に掛ける為
君を戦火に差し出したりは出来ない

今日までの平和は
痛みなど負わない愚か者が刺した釘で
柩に納められたと服したくない

焼夷の雨に
打たれた古(いにしえ)の命を
無下にするのか。


秋野かよ子(詩人)


戦争の残り香を嗅ぎながら、焼け野原で産声を上げました。
戦争がこんど起こると、「怒りの鬼になる」と母は言いました。
戦争は突然起こらない。

...

覚えています。1969年 著名な歴史学者が「最後は 靖国が出てくる」
よもやと思いました。
よもやが 沸々とわざわざ出てきました。
よもやが 通達管理で縛ってきました。
よもやが 戦争を国の法案へ出してきたのです。

国の権力を持った人たち 鬼の怒りと優しさが解りますか
数百万 数千万の鬼のまえで 包み隠さず「丁寧に説明」ができますか