宮尾節子(詩人)

 

とめなかった  

 

わたしは

かかなかった

戦争詩を。

 

わたしは

 しなかった

(いじ)めを。

 

ふたりいない

ふたつはない

 

答はひとつ

人もひとり

だよ。

 

わたしは


とめなかった。


佐川亜紀  参加の詩とメッセージ

 

約束      

 

星の長い小指と

約束しました

地球が生きていけるように

地球で生きていけるように

闇の黒い紙に書きました

シジュウカラの羽で

馬のひずめで

牛の乳で

草の汁で

人の言葉で

日本語で

さまざまな言語で

 

放射性物質の針千本が突き刺さる

人に

山にも 海にも 子供にも

約束を破った大人

生命の約束を

国の約束を

これ以上 破ってはなりません

その言葉は

もっと遠くから来たのです

もっと広く集めたのです

ずっと昔から渡されたのです

ずっと未来から届いたのです

私達の中から生れたのです

私達の祈りを記したのです

平和への願いを

消してはなりません

アジアの地にたくさんの指の骨が

見つからないまま埋まっています

 

 

ただいま 戦中

 

 

すでに戦中

逆らう口はふさがれ

海を基地から守る手は踏みつけられ

地の力をおそれ原発をやめる知は隠され

 

戦争を戦争と言わない戦中

すぐに戦争が真ん中に来る

すっと世界の戦争に引きずりこまれる

すてきな戦争に飾られる

すでにイラク戦争の帰還隊員に犠牲者は出ている

隠された犠牲者

これから神々しくなる犠牲者

 

言葉の意味がどんどんねじ曲げられ

ねじ曲がった道路を ねじ曲がったルールで暴走し

首がねじ曲がってちぎれそう

 

ただいま 戦中1年目になりそう

おかえり 戦中

戦中でうれしい人もいる

戦中に死なず 名誉の死も遂げず

70年間戦後を生きて肥えて

やっと 戦中 お祖父さんと同じ

 

ただいま 戦中

ゲームや アニメみたい

でも 君の頬を流れるのは君の涙

君の心臓を動かすのは君のしょっぱい血だ

 

いのち・言葉 断章―乗り越えるために―  中村純

言葉がその人を選んで降りてくる。
言葉がふいに私をして書かしめる。
死者たちが、書かしめる。...
ある時代の流れの中で、言葉が、人に役割を求める。
今の政治状況も、その人をして、言わしめている。

言葉は乗り越えていくための創造である。


私たちは、時代を超える創造を、言葉によって為すことができる。
ナチス・ヒットラーの言葉を超えたのは、

フランクルやプリモレーヴィーや、チャップリンの言葉だった。
凌辱された女たちを立ち上がらせた言葉。
水俣病・原爆で破壊されたにんげんを立ち上がらせた言葉。
沖縄の声。

それは、痛みに満ちたその人自身の、にんげんの言葉だった。
反するだけでは超えられない。

 

破壊されたにんげんが、再生するときにたちあがる尊厳と深い人間性の輝き。

その輝きが未来を照らした。
もっとも痛んだ者が、もっとも希望であるという逆説。
而して、あなたはその痛みを引き受け、生き延びた。
人間性を破壊する言葉や制度を超えるのは、人間性を回復する言葉である。
時代の波を超えて行かれるかどうかの鍵は、言葉による創造にある。

 

ヘイトスピーチが象徴する時代の流れと空気。
超えられなければ、あの日の関東大震災の朝鮮人大虐殺。
超えられなければ、あの日の南京大虐殺。
超えられなければ、特攻隊の青年たちの行き場をなくした魂。

 

言葉が、死んだ、日。
殺戮に獣となった者たちには、人の叫びは聴こえず、

だれが加害者で被害者なのかもわからなくなる、地獄絵図。
言葉と名前を奪われたにんげんは、死すしかなかった。
奪った獣たちは、みずからもにんげんであることを忘れ、

言葉と名前を奪われた人たちが、にんげんであることが、わからなくなった。
屠られた朝鮮人も、中国人も、玉砕した特攻隊の青年も、

いのち尽きるとき、自分がだれだったか思い出しただろうか。


母親に抱かれ、名づけられた、日。
陽の光に驚いて、目をみはった、無垢な、いのち。
果たしていのち奪われたことを、思い出しただろうか。
あなたたちの魂は、彷徨ったまま、だ。

いま、時代の危機を察知した詩人に、

ことばを取り戻した死者たちが、土の底から語りかけ、詩人をして言わしめる。
痛むことを恐れるな、乗り越えるために。
にんげんの言葉を創造せよ、乗り越えるために。

 



日本はいま戦争をしている  奥主榮

 

日本はいま戦争をしている

日本はいま戦争をしている
けしてことばにはされることがないまま
いつの間にか戦争をしているのだけれど
それを誰も戦争と呼ばない
そう呼ばないことで誰もが
戦争をしているのだという事実から
目をそらすことができ
つみの意識からは逃れ
日本はまだ戦争をしていないのだと
そう思いこもうとする

日本はいつのまにか戦争をしていた
気がついてみると ただそれだけのことが
目の前にあり
現実としてそのようになった以上
当たり前のこととして受け入れるほかはなくなり
そのことについて何か問いかけたり
考えたりすることが
すでに無用のこととなり

日本はいま戦争をしているという
当たり前のこととなったことが次には
執拗にことばとなり繰り返され確かめられて
口にされるごとに何か特別な
新しい意味が一人歩きを始めていく

日本はいま戦争をしているのだから
いろいろと耐え忍ばねばならぬ
日本はいま戦争をしているのだから
自ずと自重せねばならぬ
華奢は慎み贅沢な品々は供出し
日本はいま戦争をしているのだからという
その言い分で何もかもを
自分に都合が良い方向へ運ぼうとする連中までが
街のあちらこちらを卑しい顔つきで
うろうろと歩きまわるようになり
そうこうしている間に

日本はいま戦争をしているのだから
命まで召し上げられようが
喜んでみせねばならぬなどと
あれもこれもいましめあい
妬心からの言い草までもがすりかえられ
大義やら御時勢やら
もったいをつけた単語の総動員
ことば総動員法に基づいて
日本はいま戦争をしていますと
何度も何度も繰りかえしては口に出すことで
気持ちは追い詰められ
語調はいつか荒くなり
昂ぶった気持ちのままにくもらせた目で感情をあおり
四方を海に囲まれた国で足並みを揃え向かう場所を求め
海をわたり つみをかさねる

今戦争をしているこの国で
非常時を乗り切る為には
ちっぽけな犠牲になどまどわされることなく
国家百年の計をと
血の染み付いた漆喰の壁に
磔にされる我等皇国臣民
目を抉られ口を塞がれ耳を切り落とされて
役立たずのろくでなしと棒で打たれ追いたてられ
逃げまどう姿を嘲笑され おらぶ自由だけはまだあると
鉄格子のない牢獄に囚われたまま御民我 一億一心 七生報国
欲しがりません勝つまでは

日本国は二〇〇九年現在
戦争をしているから


活動目的

2015年7月15日 安倍内閣は、安保関連法制の衆議院強行採決を予定しています。
ことばを軽んじ、対話を拒んだ先、嘘の上塗りと歴史の書き換え、ファシズムと暴力と戦争がはじまる。
詩人の方たち、表現する人たち、ものを書く人たち、メディアの方たち、あきらめず、にんげんの尊厳のことばをギリギリの際から発信しませんか。
 


全体のだれかが代表した声明ではなく、個々人のことばを、メッセージで伝えられないかと。
これは、ことばと尊厳をめぐる闘いであると、直観しています。

 時代と対話を求め、言葉の力を信じましょう。閉ざされる前に。
お声かけした人たちから集まった50字~100字程度の賛同人メッセージ・詩などを、HP掲載のほか、新聞社・出版社など、メディアに発信します。


お問い合わせ

強行採決まで、お問い合わせに応じる時間的余裕がなくなってきており、暫定的なHP運用です。
取材などのご依頼は、HPのお問い合わせから、よろしくお願いします。


安保法制ということばは、「安全保障」という政府側の詭弁で、戦争をするための法律という本質を伝えません。タイトルを「戦争立法」に抗う、詩人・ことばたちの非戦メッセージ、に変えました。メッセージをお寄せくださった方は、詩人の方が多いのですが、詩人というのは、定義はありません。ことばの力を信じ、今の時代の政治のことばに違和感を感じている方たちが、時代を別の方向に紡ぐために、ひとりひとり、メッセージを紡いでいただければと思います。 集団でデモで声をあげる方法もあり、デモに迎えない人もあり、沈黙を選ぶ人も、言葉以外の方法を模索する人もあります。ここは、静かに個人が責任を持ち、ひとり、ことばで立つための場。ひとりひとりのことばが、響きあうことを願って。 小さな灯のような場になればと思っています。


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